2026年からの適用が予定されている「新リース会計基準」について、その概要や実務への影響を正確に理解したい経理・財務担当者の方へ。本記事では、IFRS第16号との関連性といった基礎知識から、従来基準との違い、設例を用いた具体的な仕訳例、導入に向けた実務対応までを専門家が徹底解説します。新基準の核心は、これまで費用処理のみで済んでいたオペレーティングリースも原則として「使用権資産」と「リース負債」として貸借対照表に計上(オンバランス化)する点にあります。この記事を通じて、新基準の全体像を掴み、自社の財務諸表に与える影響を把握した上で、システム改修なども含めた万全の準備を進めるための知識を全て得ることができます。
新リース会計基準とは 2026年からの適用に向けた基本概要
2023年5月、企業会計基準委員会(ASBJ)は「リースに関する会計基準(案)」(以下、新リース会計基準案)を公表しました。これは、日本の会計実務に大きな影響を与える重要な変更であり、国際的な会計基準との整合性を図ることを目的としています。本章では、2026年度からの適用が予定されている新リース会計基準の基本的な概要について、その背景や適用時期、対象範囲をわかりやすく解説します。
そもそもリース会計基準とは
新リース会計基準を理解する前提として、まずは現行のリース会計基準についておさらいしましょう。リース取引とは、特定の資産(物件)を一定期間、使用料(リース料)を支払って借り受ける契約のことです。現行の会計基準では、リース取引を主に以下の2種類に分類し、それぞれ異なる会計処理を行っています。
- ファイナンス・リース取引: リース契約を解約できず、リース料総額が物件の購入価額とほぼ等しいなど、実質的に資産を購入したのと同様の経済的実態を持つ取引です。この場合、借手は資産(リース資産)と負債(リース債務)を貸借対照表(B/S)に計上(オンバランス)します。
- オペレーティング・リース取引: ファイナンス・リース取引以外のリース取引です。一般的な賃貸借契約に近く、支払ったリース料を費用として処理するのみで、資産や負債は計上されません(オフバランス)。
このように、現行基準の最大の特徴は、ファイナンス・リースとオペレーティング・リースで会計処理が異なる「二元的なアプローチ」を採用している点にあります。
新リース会計基準が導入される背景 IFRS第16号との関連性
新リース会計基準が導入される最も大きな背景は、国際財務報告基準(IFRS)の「IFRS第16号 リース」とのコンバージェンス(収斂)です。グローバルに事業展開する企業が増える中で、各国の会計基準が異なると、投資家が企業の財務状況を正確に比較・分析することが困難になります。
特に、現行基準におけるオペレーティング・リースのオフバランス処理は、多額のリース契約を抱える企業の負債が貸借対照表に現れず、実態よりも財務状況が良く見えてしまうという問題点が指摘されていました。IFRS第16号では、この問題点を解消するため、使用権モデル(後述)を採用し、原則としてすべてのリースをオンバランス処理するよう求めています。
今回の新リース会計基準案は、このIFRS第16号の考え方を基本的に取り入れることで、日本企業の財務諸表の国際的な比較可能性を高め、投資家への情報提供の透明性を向上させることを目的としています。
新リース会計基準の適用時期はいつからか
新リース会計基準案によれば、適用時期は原則適用と早期適用が定められています。具体的なスケジュールは以下の通りです。
| 適用区分 | 適用開始時期 |
|---|---|
| 原則適用 | 2026年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から |
| 早期適用 | 2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から |
多くの企業にとっては、2027年3月期決算から新基準が強制適用されることになります。適用開始までにはまだ時間がありますが、影響の大きい企業は早期の準備が不可欠です。
新リース会計基準の対象となる企業とリース取引
新リース会計基準の適用対象となる企業と取引の範囲は以下の通りです。
- 対象企業
- 金融商品取引法の適用を受ける上場企業やその連結子会社、関連会社などが主な対象となります。会社法のみが適用される非上場企業などについては、引き続き現行のリース会計基準の適用が認められる見込みです。
- 対象となるリース取引
- 原則として「すべてのリース」が新基準の適用対象となります。これは、これまでオフバランス処理されてきたオペレーティング・リースも含まれることを意味します。ただし、実務上の負担を考慮し、「短期リース(リース期間が12か月以内)」および「少額リース(原資産が少額)」については、簡便的な会計処理が認められる予定です。これらの例外的な取り扱いの詳細は後の章で詳しく解説します。
このように、新リース会計基準は、特にこれまでオペレーティング・リースを多用してきた企業にとって、財務諸表や業務プロセスに大きな変革を迫るものとなります。
【徹底比較】新リース会計基準と従来基準の主な違い
2026年4月以降に開始する事業年度から適用される新リース会計基準は、特に借手側の会計処理に大きな変更をもたらします。ここでは、従来のリース会計基準と具体的に何がどう変わるのか、主要な変更点を徹底的に比較・解説します。
最大の違いはオペレーティングリースのオンバランス化
新リース会計基準における最大の変更点は、これまでオフバランス処理(貸借対照表に計上しない処理)が認められていたオペレーティング・リースが、原則としてオンバランス化されることです。
従来の基準では、リース取引を「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」の2つに分類していました。ファイナンス・リースは実質的な資産の売買とみなされ、資産・負債を計上(オンバランス)しましたが、オペレーティング・リースは通常の賃貸借取引として扱われ、支払リース料を費用計上するのみでした。
しかし、新基準ではこの区分を撤廃し、借手に対して「単一の会計処理モデル」を適用します。これにより、短期リースや少額リースといった一部の例外を除き、すべてのリース契約について、資産(使用権資産)と負債(リース負債)を貸借対照表(B/S)に計上することが求められます。この変更は、企業の財政状態をより正確に財務諸表に反映させることを目的としており、特にオペレーティング・リースを多用してきた企業にとっては、財務指標に大きな影響を与える可能性があります。
借手側の会計処理の変更点
新リース会計基準の導入により、借手側の会計処理は根本的に変わります。特に、資産・負債の計上方法と、損益計算書(P/L)における費用計上の方法が大きく変更されます。以下で具体的な変更点を詳しく見ていきましょう。
使用権資産とリース負債の計上
新基準では、すべてのリース契約(例外を除く)において、リース開始日に「使用権資産」と「リース負債」を計上します。これは、借手がリース期間にわたって原資産を使用する「権利」を資産として、将来のリース料支払「義務」を負債として認識するという考え方に基づいています。
| 従来基準 | 新リース会計基準 | |
|---|---|---|
| ファイナンス・リース | リース資産・リース債務を計上(オンバランス) | 短期・少額リース等を除き、すべてのリースで使用権資産・リース負債を計上(オンバランス) |
| オペレーティング・リース | 資産・負債の計上なし(オフバランス) |
具体的には、リース負債は、未払リース料総額をリースの計算利子率などで現在価値に割り引いて算定します。一方、使用権資産は、このリース負債の当初測定額に、前払リース料やリース契約に直接関連する付随費用などを加えて算定します。
減価償却費と支払利息の費用計上
費用計上の方法も大きく変わります。従来のオペレーティング・リースでは、支払リース料を毎期ほぼ定額で費用処理していましたが、新基準では費用が2つの要素に分解されます。
具体的には、資産計上した「使用権資産」に対する減価償却費と、負債計上した「リース負債」に対する支払利息をそれぞれ費用として計上します。この結果、費用総額は変わりませんが、その内訳と計上タイミングが変化します。一般的に、支払利息はリース期間の初期に多く、後半になるにつれて減少するため、費用が前倒しで計上される傾向があります。
| 従来基準 | 新リース会計基準 | |
|---|---|---|
| 費用項目 | 支払リース料 | 減価償却費 + 支払利息 |
| 費用計上の特徴 | 期間を通じて定額計上が多い | リース期間の初期に費用が大きく計上される傾向(費用前倒し) |
| 損益計算書上の表示 | 販売費及び一般管理費など | 減価償却費は販管費など、支払利息は営業外費用 |
この変更により、営業利益やEBITDA(利払前・税引前・減価償却前利益)といった経営指標が改善する可能性がある一方で、経常利益への影響も考慮する必要があります。
貸手側の会計処理の変更点
借手側に大きな変更がある一方、貸手側の会計処理は、従来の会計処理が基本的に踏襲されます。つまり、貸手は引き続きリース取引を「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」に分類し、それぞれに応じた会計処理を行います。
これは、貸手側の会計処理が収益認識会計基準など他の基準との整合性が既に取れていることや、国際的な会計基準(IFRS第16号)でも同様の扱いとなっているためです。したがって、貸手企業の実務においては、新基準導入による直接的な影響は限定的と言えるでしょう。
セール・アンド・リースバック取引の変更点
セール・アンド・リースバック取引とは、企業が保有する資産を一度売却し、同時にその買手から同じ資産をリースで借り戻す取引のことです。この取引に関する会計処理も変更されます。
新基準では、この資産の譲渡が「収益認識に関する会計基準」における売却の要件を満たすかどうかを最初に判定する必要があります。
- 売却要件を満たす場合:
資産の売却取引とリースバック取引を別個のものとして会計処理します。売手(借手)は売却損益を認識し、リースバックについては使用権資産とリース負債を計上します。 - 売却要件を満たさない場合:
資産の譲渡は売却とは見なされず、その資産を担保とした金融取引(借入れ)として会計処理します。この場合、売却損益は認識されず、受け取った対価は金融負債として計上されます。
この判定が加わることで、従来よりも取引の実態をより厳密に反映した会計処理が求められることになります。
【設例でわかる】新リース会計基準の仕訳例
新リース会計基準の理論を理解したところで、次に具体的な設例を用いて仕訳の流れを確認していきましょう。会計処理は、実際に手を動かして仕訳を切ることで、より深く理解できます。ここでは、最も影響の大きい「借手」の基本的な会計処理と、実務上の負担を軽減する「簡便的な取り扱い」について、分かりやすく解説します。
借手の基本的な会計処理と仕訳
新リース会計基準では、借手は原則としてすべてのリース取引を使用権資産とリース負債として資産・負債計上(オンバランス)する必要があります。ここでは、設例を基にリース開始時から決算、リース料支払い時までの一連の会計処理を見ていきましょう。
【設例】
以下の条件で、A社がB社から事務用複合機をリースする取引を想定します。
| リース物件 | 事務用複合機 |
|---|---|
| リース期間 | 5年 |
| 年間リース料 | 1,000,000円(毎年期末払い) |
| リース料総額 | 5,000,000円 |
| 割引率(借手の追加借入利子率) | 3% |
| リース料総額の現在価値 | 4,579,708円 ※計算上の簡便化のため、以下4,580,000円として処理します。 |
| 減価償却方法 | 定額法(残存価額ゼロ) |
リース開始時の仕訳
リース契約を開始した時点で、借手は将来支払うリース料総額を現在価値に割り引いた金額で「使用権資産」と「リース負債」を計上します。これが、新リース会計基準の最大の特徴であるオンバランス化の処理です。
| 勘定科目 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 使用権資産 | 4,580,000円 | |
| リース負債 | 4,580,000円 |
この仕訳により、貸借対照表(B/S)の資産の部に「使用権資産」が、負債の部に「リース負債」がそれぞれ計上され、企業の財政状態をより正確に反映することになります。
決算時の仕訳 減価償却と利息費用
決算時には、計上した使用権資産とリース負債に対して、それぞれ費用計上の処理が必要です。具体的には「減価償却費」と「支払利息」を計上します。
1. 使用権資産の減価償却
使用権資産は、固定資産と同様にリース期間にわたって規則的に減価償却を行います。今回の設例では定額法を用いるため、以下の計算となります。
計算式:4,580,000円 ÷ 5年 = 916,000円
| 勘定科目 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 減価償却費 | 916,000円 | |
| 使用権資産減価償却累計額 | 916,000円 |
2. リース負債に係る利息費用の計上
リース負債は、割引計算の基となった割引率を用いて利息を計算し、費用として計上します。利息は、期首時点のリース負債残高に割引率を乗じて算出します。
計算式:4,580,000円 × 3% = 137,400円
| 勘定科目 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 支払利息 | 137,400円 | |
| リース負債 | 137,400円 |
この結果、従来は「支払リース料」として一本で費用計上されていたものが、「減価償却費」と「支払利息」の2つに分けて費用計上されることになります。これにより、損益計算書(P/L)の表示も変化します。
リース料支払時の仕訳
年に一度のリース料支払日には、リース負債の返済として処理します。決算時に計上した利息費用と、元本返済部分を区別して理解することが重要です。
年間リース料1,000,000円の支払いは、利息充当分(137,400円)と元本返済分(1,000,000円 – 137,400円 = 862,600円)に分解されます。決算時の仕訳でリース負債に利息分が加算されているため、支払時の仕訳は以下のようになります。
| 勘定科目 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| リース負債 | 1,000,000円 | |
| 現金預金 | 1,000,000円 |
この処理により、リース負債の残高は(4,580,000円 + 137,400円 – 1,000,000円 = 3,717,400円)となり、翌年度はこの残高を基に再び利息計算が行われます。
貸手の基本的な会計処理と仕訳
借手側の会計処理が大きく変更される一方で、貸手側の会計処理については、現行の会計基準から実質的な変更はありません。
従来通り、リース取引を「ファイナンス・リース取引」と「オペレーティング・リース取引」に分類します。所有権移転条項や割安購入選択権の有無、リース期間、リース料の現在価値といった基準(いわゆるファイナンス・リースの5要件)に基づいて判定する点も変更ありません。
- ファイナンス・リース取引の場合:リース債権を計上し、利息相当額を期間按分して収益として認識します。
- オペレーティング・リース取引の場合:リース資産を固定資産として計上・減価償却し、受け取るリース料を収益として認識します。
このように、貸手はこれまでの実務を基本的に継続することになるため、システムや業務フローの大規模な変更は不要となるケースが多いでしょう。
簡便的な取り扱いが認められるケース
すべてのリース取引について原則的な会計処理を適用すると、企業の経理担当者にとって事務負担が非常に大きくなります。そのため、新リース会計基準では重要性が乏しい特定のリース取引について、会計処理の簡素化を認める「簡便的な取り扱い」が用意されています。
短期リースの会計処理
「短期リース」とは、リース開始日時点でリース期間が12ヶ月以内であるリース取引を指します。購入選択権が含まれている場合は、その行使が確実でない限り短期リースに該当します。
短期リースに該当する場合、借手は使用権資産とリース負債を計上せず、従来通り、支払うリース料を期間の経過に応じて費用として計上できます。これにより、例えば数ヶ月だけ利用するオフィス機器のレンタルなどの管理負担が大幅に軽減されます。
【仕訳例:月額5万円のPCを6ヶ月間リースした場合の毎月の仕訳】
| 勘定科目 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 支払リース料(または賃借料) | 50,000円 | |
| 現金預金 | 50,000円 |
少額リースの会計処理
「少額リース」とは、リース対象となる資産そのものの価値が少額であるリース取引を指します。この簡便的な取り扱いを選択した場合も、短期リースと同様に使用権資産とリース負債を計上せず、リース料を費用として処理することが可能です。
少額かどうかの判定は、個々のリース資産単位で行います。金額の具体的な基準については、日本の会計基準ではまだ明確な定めはありませんが、先行して適用されている国際的な会計基準(IFRS第16号)では、新品であった場合の価額が5,000米ドル以下であることが一つの目安とされています。企業の判断で、少額リースの基準をポリシーとして設定し、一貫して適用することが求められます。
この規定により、事務用の椅子や電話機、タブレット端末といった少額な資産のリースについて、煩雑な資産・負債管理を回避できます。
新リース会計基準導入に向けた企業の実務対応と影響
新リース会計基準の導入は、単に会計処理が変更されるだけでなく、企業の財務状況や経営指標、さらには業務プロセス全体に大きな影響を及ぼします。ここでは、新基準がもたらす具体的な影響と、企業が取り組むべき実務対応について、ステップを追いながら詳しく解説します。
財務諸表に与える影響
新リース会計基準の最も大きなインパクトは、これまでオフバランス処理が可能だったオペレーティング・リースが原則としてオンバランス化されることです。これにより、主要な財務諸表である貸借対照表(B/S)、損益計算書(P/L)、キャッシュ・フロー計算書(C/F)のそれぞれに影響が生じます。
具体的にどのような影響があるのか、以下の表で確認してみましょう。
| 財務諸表 | 主な影響 | 詳細 |
|---|---|---|
| 貸借対照表(B/S) | 総資産と総負債の増加 |
これまでB/Sに計上されていなかったオペレーティング・リースについて、「使用権資産」が資産として、「リース負債」が負債として計上されます。これにより、企業のバランスシートが大きく膨らみ、自己資本比率が低下する可能性があります。 |
| 損益計算書(P/L) | 費用構造の変化(費用の前倒し計上) |
従来は「支払リース料」として定額で費用計上されていましたが、新基準では「使用権資産の減価償却費」と「リース負債に係る支払利息」に分けて計上します。支払利息はリース期間の初期に大きくなるため、リース期間トータルでの費用総額は同じでも、期間前半に費用が厚く計上される傾向があります。一方で、EBITDA(利払前・税引前・減価償却前利益)は増加する可能性があります。 |
| キャッシュ・フロー計算書(C/F) | 表示区分の変更 |
リース料の支払額が、利息相当額は「営業活動によるキャッシュ・フロー」、元本返済相当額は「財務活動によるキャッシュ・フロー」に区分して表示されます。これにより、営業活動によるキャッシュ・フローが増加し、財務活動によるキャッシュ・フローが減少するという見え方の変化が生じます。 |
実務上の対応ステップと注意点
新リース会計基準への対応は、経理部門だけで完結するものではなく、全社的なプロジェクトとして計画的に進める必要があります。適用開始に向けて、以下のステップで準備を進めることが推奨されます。
| ステップ | 主な対応内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| Step 1:プロジェクトチームの発足 | 経理・財務部門を中心に、資産を管理する部署(総務・ITなど)、契約を所管する部署(法務・購買など)を含めた横断的なチームを組成します。 | 早期に経営層の理解を得て、全社的な協力体制を構築することがプロジェクト成功の鍵となります。 |
| Step 2:リース契約の網羅的な洗い出し | 社内に存在するすべてのリース契約を洗い出します。コピー機のリースから不動産の賃貸借契約まで、対象は多岐にわたります。 | 契約書に「リース」という文言がなくとも、実質的にリース取引の定義を満たす契約はすべて対象となります。契約内容を個別に精査する必要があります。 |
| Step 3:会計方針の決定 | 洗い出した契約情報をもとに、会計方針を決定します。特に、簡便的な取り扱いが認められる「短期リース」「少額リース」の適用基準を明確に定めます。 | 割引率の算定方法やリース期間の判断基準など、実務上の論点についての方針を統一しておくことが重要です。 |
| Step 4:リース管理台帳の整備と資産・負債の計算 | 特定したリース契約について、使用権資産とリース負債の計算を行います。契約情報や計算結果を一元管理するための台帳を整備します。 | 契約数が膨大な場合、Excelなどでの手作業管理はミスが発生しやすく非効率です。リース管理システムの導入も視野に入れるべきです。 |
| Step 5:業務フローの構築と決算・開示準備 | 新しい会計処理を定常業務に落とし込むための業務フローを構築・見直します。また、財務諸表の注記情報の準備も進めます。 | 契約の新規締結時や更新・変更時に、必要な情報をタイムリーに経理部門へ連携する仕組みづくりが不可欠です。 |
システム改修や業務フロー見直しの必要性
新リース会計基準への対応を円滑に進めるためには、システムと業務フローの両面からのアプローチが欠かせません。
システム面では、膨大なリース契約情報を一元管理し、使用権資産やリース負債の複雑な計算を正確かつ効率的に行うためには、専用のリース管理システムの導入や既存の会計・固定資産管理システムの改修が極めて有効です。手作業によるExcel管理では、契約数の増加や担当者の変更に伴うヒューマンエラーのリスク、属人化といった課題が生じやすくなります。
また、業務フローの見直しも重要な課題です。新基準は経理部門だけの問題ではなく、全社的な課題として捉える必要があります。例えば、以下のような見直しが求められます。
- 契約締結プロセスの見直し:リース契約を新たに締結する際に、会計処理に必要な情報(リース期間、リース料、各種オプションなど)を契約担当部署が確実に取得し、経理部門へ連携するフローを構築する。
- 部署間連携の強化:資産を管理する現場部門、契約を管理する法務・購買部門、そして経理部門が密に連携し、契約内容の変更や解約といった情報を迅速に共有する体制を整備する。
- 内部統制の再構築:リース契約の特定、資産・負債の計算、情報開示といった一連のプロセスにおいて、正確性と網羅性を担保するための内部統制を再評価し、必要に応じて強化する。
このように、システムと業務フローを一体として整備することで、新リース会計基準へのスムーズな移行と、その後の継続的な運用を確実なものにすることができます。
まとめ
本記事では、2026年度から順次適用が開始される新リース会計基準について、従来基準との違いや具体的な仕訳例、企業が取るべき実務対応までを網羅的に解説しました。
新リース会計基準の最大のポイントは、国際的な会計基準であるIFRS第16号との整合性を図るため、これまでオフバランス処理が可能だったオペレーティングリースが原則としてオンバランス化される点です。これにより、借手企業は短期リースや少額リースなどの一部の例外を除き、ほぼ全てのリース契約について貸借対照表に「使用権資産」と「リース負債」を計上する必要があります。
この変更は、総資産の増加や自己資本比率の低下など、企業の財務諸表に大きな影響を与える可能性があります。適用開始に向けて、対象となるリース契約の網羅的な把握、会計方針の決定、システム改修や業務フローの見直しといった準備を計画的に進めることが不可欠です。本記事で解説した内容を参考に、早期の準備に着手し、スムーズな移行を実現してください。